13歳からのアート思考の書評
今回は、末永幸歩著、13歳からのアート思考を書評します。
この方は、東京学芸大学の個人研究員として研究者であると同時に、中学や高校の美術教師もやっていたり、子ども向けの美術のワークショップをやっていたり、そんな経歴の持ち主です。
- アートの鑑賞のやり方・目的を知りたい。
- 現代美術の本質は何なのかが知りたい。
- アートから学び、自分の人生に活かせるようにしたい。
私自身、美術館は好きでたまに行くのですが、現代美術はどうも好きになれませんでした。
その作品から何を感じ取ればよいのか、全く分からないからです。そうすると、「アート的な感性が無い、残念な私」という自分に向き合わされるような感じがして、なんとなく苦手意識がありました。
一方で、昔のアート作品は意図を汲み取りやすいものが多いので、安心して作品を鑑賞することができていました。
この「13歳からのアート思考」は、まさにそのような人に是非読んでいただきたい本です。
20世紀以降の美術が、なぜ我々にとって難解になったのか、また、本当に難解なのか、その答えを知ることができます。そして、アート的思考がもたらす恩恵は、美術鑑賞にとどまらず、私たちの生き方にまで影響を及ぼすことがご理解いただけると思います。
是非、この書評を最後までお読みください。
アート的思考とは?
この本は、1枚の絵から始まります。
モネの「睡蓮」です。
有名な絵ですね。
通常私たちはアートを鑑賞する際に、絵の下とかに掲示されてる絵の名前とか説明文を読んだりして、その作品の背景などを考え、作者の意図を理解しようと試みるワケです。
でも、アートの鑑賞の仕方って、本当にそれでいいのでしょうか?
ある4歳の男の子は、このモネの絵を見てこう言ったそうです。
「かえるがいる」
と。
でも、絵にはかえるなんて描かれてません。
その場にいた学芸員は、
「え?どこにいるの?」
と聞き返したそうです。
すると男の子は、
「いま水にもぐってる」
と答えたそうです。
ここに「アート思考とは何か?」の大きなエッセンスが詰まってます。
作者は
「美術は今、大人が最優先で学び直すべき教科」
と主張しています。
アーティストのように考える「アート思考」がこれからの時代にますます必要になるからです。
- 自分だけのものの見方で世界を見つめ
- 自分なりの答えを生み出し
- それによって新たな問いを生み出す
これが、アート思考です。
世界はめまぐるしく変化しており、さらに人生100年時代です。私たちは正解のない時代を長く生きなければいけません。これからの時代の生き方において、アート思考の重要度は増すばかりです。
「自分なりの答えや問い」を見つけ、それに自分の人生をBetするという生き方ができること。これがアート的思考がもたらす、最大の恩恵です。
今、勢いのあるインフルエンサーの方とか、みなさんそんな生き様を体現されていますよね。
20世紀のアートが辿ってきた軌跡はこれからの人類が辿る道?
ルネサンス時代など、昔のアートは写実的な表現が求められていました。
見たものを美しく正確に表現することがアートの役割でした。そこでは、「アーティスト」はほぼイコールで「職人」でした。
その秩序が、カメラの登場により破壊されました。
「目に映る世界を忠実に再現する」
という役割をカメラが一手に担い、
その役割がアートから奪われたからです。
20世紀以降のアートは、アーティストは、自らの存在意義の再考を迫られました。
これって、現代の人間(特に労働者)にも当てはまりませんか?
AIの登場で、労働や場合によっては思考までも、役割を奪われる未来が想像できます。そのとき、人間は自分の存在意義をどのように捉え直すのか?
これを考えるうえで、20世紀のアーティストがどのようにもがいてきたのか? その軌跡を辿り学ぶと、希望が見えてくるような気がします。
写実からの解放
20世紀初め、マティスというアーティストは、当時としては衝撃的な方法で自分の奥さんの自画像描きました。
そこには実際にないはずの色を使って、顔を表現したのです。
その試みは、
「目に映るとおりに世界を描く」
という枠組みから、アートを解放しました。
いまとなっては当たり前ですが、
その当時としては衝撃だったようです。
このとき、「アーティスト」と「職人」が袂を分け、純粋な「アート」が生まれたのかもしれません。
「美」からの解放
その後、デュシャンというアーティストがさらにアートの枠組みを、可能性を広げていきます。
彼は、アートを「目で見て美しいもの」という枠組みから解放しました。
ただの骨董市で見つけて買ってきた便器にサインしただけの作品を発表したのです。これで、アート鑑賞は「視覚の行為」から「思考の行為」に領域を完全に移行しました。
この作品は、2004年にイギリスで行われた専門家による投票で、「最も影響を与えた20世紀のアート作品」に選ばれるほどのインパクトをもたらしました。
「アート」という枠組みからの解放
さらにアンディ・ウォーホル。彼の作品は21世紀の作品を方向付けたもの、と認知されているそうです。
彼は大量生産品の台所用洗剤のパッケージを並べただけ、しかも印刷でコピーしただけの作品を展示しました。作品を生み出すのに、自らの手を動かすことすらしなかったのです。
それによって彼は、「アートであるもの」「アートでないもの」この区分けする壁を破壊。「全てのものがアートになりえる」、また「全ての人がアーティストになりえる」可能性を提示しました。
ここにきてついに「アート」や「アーティスト」という枠組みすらも消滅しました。
このように、20世紀以降の現代美術の歴史は、
写真によって存在意義が揺らいだアートが、必要にせまられて自分の役割の範囲を段階的に拡大していって、ついにはアートという枠組み自体が消滅w 乙。
という経緯をたどりました。
13歳からのアート思考 書評・まとめ
ただの台所洗剤がアートになったのは、台所洗剤に価値を見いだす「アート思考」を持ったアンディ・ウォーホルが、ただいたから、です。
全てのモノがアートになりえるし、全ての人がアーティストになりえます。
今後、アートの可能性がさらに広がると、もはやモノにも限らないかもしれませんね。その証拠にMOMAのコレクションにはゲームの「パックマン」が加わっているそうです。もはやコード(データ)すらアートになる時代です。
アートを植物に例えてみると、
花がアート作品。とすれば、地下には種(興味)や根っこ(探求)がひろがっています。
アートの大部分を占めるのは、実は、種や根っこなど目に見えない部分です。
アートとは何か?
に向き合ってきた20世紀のアーティスト達は、
「自分の好奇心」に忠実に探求の根を伸ばし、
「自分なりのものの見方」を用いて、
「自分なりの価値創出」をしてきました。
現代美術において、ここで何が起こってきたのかを学ぶと、アートが分かるし、そのアート的思考を身につけて我々の人生に活かすこともできるのではないでしょうか?
「13歳からのアート思考」は、その為の最高のガイドブックでした。
今回の書評は、以上です。
ありがとうございました。